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ボクはパリ症候群だった 【連載第一回】
May 24, 2011

あなたを待ち受ける、パリの闇
200X年のこと。夏も終わろうとしている9月。ボクはある夢を抱いて、憧れの異国の地を踏みました。そこはフランス、パリ、シャルル・ド・ゴール空港。相変わらずバターの薫りが漂っていました。そう、ボクは遂にパリジャンとなるのです! パリといえば......その華やかなイマージュ。碧い空の下のセーヌ河、アコーディオンによって奏でられるシャンソンの調べ、軒並み連なる宝箱のような美術館、シックでクールなカフェ、美味しいワインとチーズ......
しかし、物には何事も表と裏があります。表のパリがバラ色に彩られているとすれば、裏のパリは、深海魚が住まう海底のように、暗黒なのです。夢と希望を抱いていた『夢見るシャンソン』的なボクが、後々、「あんなこと」になるなんて、その時は思いもよりませんでした。そう、ボクは病に罹ったのです。キルケゴールのいう『死に至る病』に。
パリ症候群という言葉をご存じでしょうか。パリに憧れ意気揚々と訪れたものの、言葉の壁や文化の違いによって、失意に打ちのめされる人が後を絶たない、それでもパリから離れられない。そこから名付けられたシンドロームのことです。それはまるで何かのアディクションのように我々の心に食い込んできます。この症候群、多くは女性に発症するらしいのですが、そんなのは関係ありません。だって、男のボクが実際に罹っていたのですから。
帰国して数年。いまでもパリを思い出すと、古傷がうずくんですけどね、正直なところ。でもボクは根が優しいので、皆さんが発狂、おっと、発症する前に、誰もが語りたがらない、いくつものパリの裏の真実をお教えいたします。
執筆者/湖之鳥タクマ
ライター・トランスレイター。執筆の傍ら、フランス語・英語講師。三年ほど文学・美術を研究の為、パリ大学に在籍。パリ症候群を発症し、失意のうちに帰国。二度とフランスには帰りたくない!
写真/天野裕子